物理とは何を学ぶ学問?役に立つ知識や将来の職業も解説

科学2024.06.05

この記事について

さまざまな学問がある中で、「物理(ぶつり)」という学問分野を聞いたことがあるでしょうか。


小学校や中学校で学ぶ理科には、実は物理も含まれています!
意識していなくても、気がつかないうちに物理について学んでいます。
 
今回は、物理とはどんな学問なのかをお話しします。
物理は将来的に何に役立ち、物理を学ぶと大人になってどんな職業につくことができるかについてもご紹介します。

このコラムは、私が監修しました!

北海道科学大学 全学共通教育部

教授内田 尚志Uchida Takashi物理学

私の専門分野は物性物理学で、金属の磁気的性質の理論的研究を行っています。磁気的性質を示す金属の場合、金属を構成する原子自身が磁石になっていて、これを磁気モーメントと言います。原子の磁気モーメントは主として原子内部の電子の磁気モーメントにより形成されます。私の研究においては、金属中の電子の状態をコンピューター上で再現することにより、原子の磁気モーメントにより形成されるミクロな磁気構造の解明を目指しています。最近は、特定の金属において、原子の磁気モーメントが特殊な渦構造を形成することが見いだされ、次世代記憶素子への応用の可能性も指摘されていることから、私の研究においても、金属中で形成される特異な磁気構造とその物理的な起源の解明を目指しています。

私は普段、大学においては、主として工学部や保健医療学部の物理学の授業を担当しています。できるだけ分かりやすい授業を展開することにより、受講する学生の皆さんが物理学に興味・関心を持って勉強してくれるようになることを目指しています。

私が物理学に興味を持ったきっかけは、小学5年生のときに、電子部品を専門店で買い集め、初めてトランジスタ・ラジオを自作した経験にあります。設計図通りに組み立て、スピーカーから音が聞こえてきたときは大変感動しました。放送局から放たれた電波に音声情報が載せられ、その電波が何もない空中を伝わり、自分のラジオのアンテナがその電波を受信し、音声を再現できることは驚異的であると思いました。そして、物理を一生懸命勉強すれば、どういう仕組みで電波が発生し空間を伝わるのか、受診した電波がどのようにしてラジオが捉え増幅し音声に変えるのかということが理解できることを知り、将来は物理を専門に学びたいと考えました。私は大学での授業以外に、大学が主催する講座で小学生、中学生、高校生に物理を教える機会もあります。物理を学ぶ面白さや感動を多くの若い人たちに味わってもらいたいと考えています。

物理とは?何を学ぶ学問?

物理(ぶつり)は、自然現象がどのような原理、法則で生じるのかを追求する学問で、宇宙全体のような広大なスケールで生じる現象、私達が直接観察することができる物体の運動や電気、磁気、熱、音、光の関係する現象、物質内部のミクロな世界で生じる現象までを研究対象としています。
 
小学校や中学校で学ぶ理科の授業でも物理についても学んでいます。例えば、小学3年で学ぶ「光の反射」や小学5年で学ぶ「振り子の運動」、中学2年で学ぶ「回路と電流・電圧」などは、どれも物理学です。

物理学という学問分野は今から約400年前にイタリアのガリレオが物体の運動について研究したことから始まりました。

ガリレオ・ガリレイ

ガリレオは、何も外部から力が働かないとき、静止している物体は静止し続け、運動している物体は同じ速さで真っ直ぐ運動し続けるということを発見しました。これを慣性(かんせい)の法則と言います。

慣性の法則

ガリレオが死んだ年に、イギリスでニュートンが生まれました。
ニュートンはガリレオやその他の先人達が書いた本を読んで物理学の研究を進め、外部から物体に力が働くときは、力の向きに物体の速度が変化することを発見しました。

これを運動の第二法則と言います。

アイザック・ニュートン

ニュートンは木から落ちたリンゴを見て、リンゴが木から落ちるのも、月が地球の周りを回るのも地球からの引力が原因に違いないと考えました。

万有引力

慣性の法則によると、月は周りに何もなければ同じ速さで真っ直ぐ運動し続けるはずですが、月は地球から引力を受けるために、常に直線軌道から外れ地球の中心に向かって落ち続ける結果、地球の周りを回り続けると考えたのです。

月の軌道

この考えに基づき、ニュートンは地球の中心に向かって月が落下する加速度を計算し、その値が地上でのリンゴの落下の加速度(重力加速度)と比べて地球の中心からの距離の2乗に反比例して小さくなっていることを見出しました。

このことは、地球がリンゴや月に及ぼす力が地球の中心からの距離の2乗に反比例することを示しています。
さらに、惑星が太陽の周りを公転するときの軌道の観測結果に運動の第二法則を適用し、惑星も太陽からの距離の2乗に反比例する引力を太陽から受けていることを明らかにしました。

このことから、ニュートンはすべての物体の間には物体間の距離の2乗に反比例する引力が働くと考え、「万有引力(ばんゆういんりょく)の法則」を発見するに至ったのです。
このように自然現象を支配している基本法則とは何かを追求することが物理学の第一の目的です。

ニュートンは、惑星の運動について当時知られていた法則(ケプラー三法則)がすべて、運動の第二法則と万有引力の法則から導かれることを明らかにしました。

ニュートンの後輩にハレーという人がいますが、ハレーは1682年に現れた大彗星の観測を行い、ニュートンの理論に基づきこの彗星の軌道を計算し、76年後の1758年にこの彗星が再び現れることを予測しました。

エドモンド・ハレー

ハレーの死後この予測は的中し、それ以来この彗星はハレー彗星と呼ばれるようになりました。
このことによりハレーの名は有名になったのはもちろんのこと、ニュートンの運動法則と万有引力の法則の正しさが改めて実証されました。

ハレー彗星

このようにして、すでに知られている物理学の法則を自然現象に適用してその原因を明らかにしたり予測を行ったりすることが物理学の第二の目的です。

物理学の第三の目的は物理学の法則を応用して、人間の生活に役立てることです。
これは、現在では物理学というよりは工学の主な目的となっています。

例えば、地上から物体を投げるとき大きな速度で投げるほど遠くに落下しますが、ある速度より大きな速度で投げれば物体は月のように地球の周りを回り続けることをニュートンは明らかにしました。

つまり、ニュートンは人工衛星を打ち上げ地球の周りを周回させることを考えたのです。
残念ながら、その当時は技術の発達が十分でなく人工衛星を打ち上げることはできませんでしたが、現在ではニュートンの構想通りに、人類はいくつもの人工衛星を打ち上げ地球の周りを周回させ、それらを様々な目的で利用しています。

物理を学ぶとどんなことに役に立つ?

振り子のイメージ

高校生になると、物理を独立した科目として体系的に学ぶことになります。

高校の物理では、主として19世紀までに完成された物理学の法則体系である、力学、電磁気学、熱力学、波動、流体の基礎について学びます。
これらは古典物理学と呼ばれ、産業革命以来人類が発明してきた様々な技術、例えば、列車や車の動力となる蒸気機関、ガソリン機関、ディーゼル機関等の熱機関(熱力学)、飛行機(流体力学)、モーター、発電機、電灯、電話、無線通信、ラジオ等の電気関連技術(電磁気学)、建築物、構造物等(剛体や弾性体の力学)に応用され、現在においてもなお、機械工学、電気工学、建築工学、土木工学等の工学諸分野の基礎になっています。

また、これらの物理学を学ぶことで、「ジャッキを使うと1トン以上ある自動車を持ち上げられるのはなぜか?」「汗をかくとなぜ体温上昇が抑えられるのか?」「海の中ではプールの中よりも体が浮きやすいのはなぜか?」「なぜ物体は固体、液体、気体と状態が変化するのか、そのとき熱が出入りするのはなぜか?」等の疑問に答えることができるようになります。

高校物理で学ぶこと

20世紀になると、互いに相対運動する観測者および重力が働く空間の観測者が観測する時間と空間に関する性質を記述する相対性理論と原子より小さなミクロの世界での物理法則を記述する量子力学の法則が発見されました。
これらは現代物理学と呼ばれています。

相対性理論は宇宙の起源と成り立ちを解明する上で大きな役割を果たしてきました。
また、現在、相対性理論は身の回りの技術にも応用されています。

例えば、現代では人工衛星から受信した電波を利用して現在位置を割り出すGPS(全地球測位システム)が自動車のカーナビ、スマホの地図アプリ等で使われていますが、高速で移動する人工衛星における時間のずれ(特殊相対性理論)、地上とは異なる重力を受ける人工衛星における時間のずれ(一般相対性理論)の補正を行うことで、現在位置の測定誤差を100m以下にすることができています。

原子より小さなミクロの世界では、電子のような物質粒子は粒子の性質と波の性質を併せ持つことが分かっていて、これを正しく記述する法則体系が量子力学です。

自然界には量子力学の法則を用いないと理解できない現象が数多く存在します。
例えば、「物体に熱を加えたときの温度上昇の大きさ(比熱)の温度による違いは何に起因するのか?」「物体が金属、半導体、絶縁体に分類できるのはなぜか?」「鉄や炭を熱すると温度上昇と共に色が変わっていくのはなぜか?」「ネオンやナトリウムなど気体に高速粒子を当てると発光するのはなぜか?」「磁石や磁石に反応する物質が存在するのはなぜか?」「波長の長い電磁波である赤外線を浴びても暖まるだけで肌は日焼けしないのに、真冬の寒いスキー場でも波長の短い電磁波である紫外線を浴びると肌が日焼けするのはなぜか?」等の疑問に答えるには量子力学による説明が必要です。

量子力学

また、量子力学の原理を応用した技術製品として、パソコン、スマホ、ビデオカメラ等の半導体素子を組み込んだ電子機器、発光ダイオード、ネオンサイン、ナトリウムランプ、レーザー光等があります。

このように私達が身近に観測する自然現象は物理学の法則を用いるとよく理解することができます。
また、物理学の法則を応用することにより、科学技術が発展してきました。

物理を学んだ人は大人になってどんな職業につく?

大学の理学部・物理学科で物理を専攻し大学院まで進んだ人は、素粒子物理学(根源物質とその起源を探る)、原子核物理学(原子核の構造と性質を探る)、宇宙物理学(宇宙の起源と成り立ちを探る)、物性物理学(物質の構造と性質を探る)のいずれかの分野で研究することになります。
大学院卒業後は、大学等で物理学の研究と教育に従事する、高校等で物理を教える教員になる、一般企業で物理の専門知識を活かした研究・開発に従事する等の進路があります。

大学の工学部で機械工学、電気工学、建築工学、土木工学等を専攻した人は学部では専門分野と関連する物理を学びます。
大学または大学院を卒業後は大学等で研究と教育に従事する、専門分野を活かして一般企業に就職し、機械工学や電気工学の技術者、建築士、土木工学技術者、宇宙開発技術者になる等の進路があります。

大学の医療系の多くの学部では、様々な医療機器の仕組みや生体活動と関連のある物理現象についての知識を得るために、物理を学ぶことになります。
大学卒業後は病院等の医療機関で医療従事者や大学等で研究・教育に従事する研究者として活躍します。
物理の知識を身につけていると、医療機器を正しく扱ったり、患者の体に負担のかからない方法で患者を介助したりすることができるようになります。

物理は「なぜ」を研究する学問です。
物理を学ぶと、論理的思考力、繰り返し研究を続ける粘り強さや、突き詰める好奇心が身につきます。

物理は何を学ぶ学問か知ることで、物理のおもしろさが見えてくる!

物理(ぶつり)は、自然現象がどのような原理、法則で生じるのかを追求する学問です。

物理を学ぶことで、一見すると複雑に見える身の回りの自然現象を物理法則に基づき、分析的、統一的に捉えることができるようになります。
また、物理学の幅広い応用について理解したり、物理法則を応用した新しい技術を生み出すこともできるようになります。

基盤能力を養う北海道科学大学の全学共通教育部

北海道科学大学の全学共通教育部は、社会で必要となる基盤能力を養う教育や数学や物理学等の基礎教育を担当しています。
大学卒業後に社会で活躍するためには、専門分野を深く学ぶのはもちろん、社会人として必要な教養と幅広い見識を養うことが大切です。

北海道科学大学では、すべての学部・学科の学生が学ぶ基盤能力育成プログラム「HUSスタンダード」において、4つの力を身につけることを目指しています。

4つの力とは、①コミュニケーション力 ②課題発見解決力 ③自らを律し学び続ける力 ④多様な視点から物事を捉え、異なる意見を理解する力です。

例えば、課題解決型の授業科目では、地域の課題について調べて探究しまとめたり、課題について意見交換や討論をすることで、論理的な思考力を育て、自己表現力やコミュニケーション能力を高めることができます。
データサイエンス教育では、すべての学科の学生が「情報処理法」「統計分析法」「データサイエンス」「AI入門」を必修で受講し、統計学の知識を応用しデータを分析したり、人工知能(AI)を活用して新たな知見を得る能力を養います。

物理学においても、多数の原子、分子、電子の集団を統計的に扱うことで物質の性質を探っている点、論理的思考力が養われる点で、データサイエンス関連科目との共通性が高く、物理を学ぶことは基盤能力の向上にも役立つと言えるでしょう。

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