食虫植物はなぜ生まれた?肉食に進化した理由と過程とは

科学2024.09.09

この記事について

皆さんは、食虫植物と呼ばれる植物を知っているでしょうか?
もしかすると、映画などの影響で「人を食べてしまう恐ろしい植物」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。
実際には、人を食べてしまうほどの大きさの食虫植物はいませんので、安心してくださいね。


今回は、不思議な食虫植物について解説します。
どんな種類の食虫植物がいるのか、どうして食虫植物が生まれたのかなど、進化の過程についても解説しますよ!

このコラムは、私が監修しました!

北海道科学大学 全学共通教育部

教授金澤 昭良Kanazawa Akira教師教育 理科教育

私が「生物学」の世界に足を踏み入れたきっかけは,大学時代に取り組んだ「海藻の受精卵の発生」に係る研究の面白さ並びに、「植物の花や生殖法」や「ツクシの胞子の微細構造」の不思議さ・美しさに魅せられ感動したことであったと思います。
私は本学で教員免許取得を目指す学生への指導・支援並びに、HUSスタンダード科目の授業を担当しており、高校生及び中学生対象の出前授業で観察・実験の指導を行うこともあります。
ライフワークとしては、高等学校理科等の授業において生徒の学習意欲を高めるために、どのような教材を用意し、どのような授業を展開すべきか、高校の先生方と協力して研究を行っています。また、花(果実)が葉と似たような仕組みでできたことを教材化し、生物の進化を意識した授業で紹介する活動も行っています。
皆さんは、「生物多様性」という言葉を聞いたことがありますか?
植物にも、生物の多様性と不思議があふれています。そこで、今回は植物の多様性や生存戦略等について紹介したいと思います。

食虫植物とは

食虫植物とは、その名の通り「虫等を食べ、それを養分の一部とする肉食性の植物」のことです。
肉食性なので、人間も食べられてしまいそうですが、そのような大型の食虫植物はまだ発見されていませんので、ご安心ください。

主に、ハエやチョウ、ハチ、毛虫など数センチ程度の大きさの虫を補食します。

捕食の方法による分類

食虫植物は数百種類あるといわれていますが、補食の方法により以下のように分けられます。

はさみ込み式

二枚貝のような開閉式の捕虫葉で虫をはさみこみ、やがて消化します。

★例)ハエトリグサやムジナモなど

開いているハエトリグサ
ハエトリグサ

落とし穴式

葉が筒状の袋のようになっており、そこに虫を落とし、袋の底にたまっている消化液等で虫を消化します。

★例)ウツボカズラ、ヘリアンフォラ、サラセニアの一部の種類など

ねばりつけ式

葉から粘液を出して虫を捕まえ、葉の内側に巻き込む等し、やがて消化します。

★例)モウセンゴケ、ムシトリスミレ、ドロソフィルム、ビブリスなど

モウセンゴケ
モウセンゴケ

吸い込み式

水中や地中において、葉や茎に付いた小袋に触れた虫を水圧で吸い込み、やがて消化します。

★例)タヌキモ、ミミカキグサなど

迷路式

植物内に逆走できない仕組みを作って捕虫器へ誘導し、捕食します。

★例)ゲンリセア




いずれも、葉や茎が変形した
捕虫器官で虫を捕らえ、一般的に消化を出等して虫を消化します。

食虫植物はなぜ生まれた?進化の過程を解説

食虫植物の多くは、湿地や沼地、砂地等といった、栄養分の少ない土地に生育しています。食虫植物は、そのような環境で生きるために、栄養分を虫等から補うことができるように進化したと考えられています。

食虫植物についてはさまざまな研究が行われていますが、有名なのがドイツ・ヴュルツブルク大学の研究チームによる三種類の食虫植物(「ハエトリグサ」「ムジナモ」「モウセンゴケ」)についての研究です。

この研究では、食虫植物の進化には、これら三種類の植物の祖先が深く関わったと考えています。

まずはさかのぼること約7,000万年前の白亜紀、地球に恐竜がいた時代です。
三種類の食虫植物の祖先において、遺伝子の複製が行われたことから多様化し、葉や茎が捕虫器官へと変化しました。

次に起こるのは、肉食以外の栄養獲得のための遺伝子の消失です。
虫から栄養分を補うことになったために、肉食以外の栄養獲得のための遺伝子がどんどん失われていきました。

最後は、環境に合わせた捕虫器官の多様化です。
それぞれの食虫植物は、生息する環境で最も効率良く虫を捕まえる捕虫器官を進化させました。これが、先ほどご紹介した、補食の方法の多様化につながります。

食虫植物は、長い年月を経て、栄養分の少ないやせた土地でも生き抜くため、多様な進化を遂げたのですね。


ちなみに、食虫植物は家で育てることもできます。
「虫をあげないと育たないの?」と思われるかもしれませんが、光合成を行なっているため、必ずしも虫を食べさせる必要はありません。
食虫植物は、栄養分の少ないやせた土地でも育つために、初心者に育てやすいといわれています。

食虫植物は病害虫の心配もほぼなく、逆にコバエや蚊などの虫を食べてくれるので、気になった方はぜひ育ててみてはいかがでしょうか。

これから観葉植物を育ててみたいという方は、初心者におすすめの観葉植物を紹介した「観葉植物で初心者におすすめの種類をご紹介!選ぶポイントも」も参考にしてみてくださいね。

食虫植物は進化の過程で環境に適応していた!

食虫植物は虫等を食べる肉食性の植物のことで、ハエやハチなどの虫を食べて栄養分を摂取します。
食虫植物は世界に数百種類以上存在するといわれていますが、捕食の方法で「はさみ込み式」「落とし穴式」「ねばりつけ式」「吸い込み式」「迷路式」に分けることができます。

食虫植物が誕生したのは、実に7,000万年前とはるか昔のこと。
葉や茎を変化させ、独自の捕虫器官を進化させてきました。

栄養分の少ないやせた土地で生き抜くため、食虫植物は、それぞれの植物の生育環境に適応し生きてきました。
実はお家で育てることもできるので、気になった方は育ててみても楽しいですよ!

全学共通教育部の授業等で植物について学んでみませんか?

北海道科学大学全学共通教育部では、卒業後に社会に羽ばたくために必要な、社会人として必要な教養と幅広い見識を身につけるための教育を担当しています。
身近なことから課題を発見し、探究する姿勢も身につけられますよ!

全学共通教育部の金澤 昭良教授による「SDGs(環境と人権)」の授業や出前授業では、身近な野菜や果物の果実の構造について説明したり、花と果実の関係を生物の進化と関連させて紹介したりします。

食虫植物の進化について面白いと感じた方は、ぜひ受講してみてくださいね。

情報科学部 情報科学科 誕生情報科学部 情報科学科 誕生